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小説 もう一度3きみこ

(これは3話完結の小説の2話目です。登場人物はすべて架空の人物です。)

3.きみこ
 
暑い夏の夜、電話が鳴った。
帰りの遅い娘だと思い、少しウンザリと受話器をとった。
「もしもし、とわこ…?」
その問いかけに応えたのは、聞き慣れた娘の声ではなかった。
「警察…?」
「ええ、すぐに確認に行って下さい」
私は、すぐに指定された病院に向かった。

機械から伸びているたくさんの管に繋がれた体が目に入った。
ベットに近づいて恐る恐るその顔を見た。
間違いなく娘だった。
「とわこ…、何で…?、どうしたの…?」
「娘さんですか…?」
私の様子を見ていた看護士が話しかけてきた。
「はい…、この子もうすぐ結婚式なんですよ」
「そうなんですね…」
看護士は、淡々と応えた。

私は、今朝普段と変わりなく家を出た娘に何があったのか訳が解らない
まま、事情を説明されていた。
「娘さんは、信号無視の車にはねられたみたいです」
「何故、わかるんですか…?」
「それは、幸い、跳ねた車の運転手が救急車を…」
『幸い…?』
私は、その言葉に大きな違和感を感じた。
『この人は、早く処理できたから幸い…、他人事よね』
この時の私は、娘の変わり果てた姿に取り乱している一方で、こんな
冷静なことを考えていた。
「運転手が車に飛ばされた娘さんを発見し、救急車を呼んだ後、警察に
自首してきましてね」

たくさんの説明を受けて、私はやっと娘のいる病室に戻れた。
「遅くなってごめんね…」
すぐに医者が入ってきた。
「先生、娘は…?」
「お気の毒ですが、娘さんが目を覚ますことはもう…」
「娘は助からないんですか…?」
「お気の毒ですが…」
私の瞳からはひとりでに涙が流れ出した。

「あなたね、携帯電話だけしっかり握っていたんですって…、あなたの体
が携帯電話を守ったって…、それでね、自宅の番号がわかったんですって」
医者が出ていった後、私は、意識のない娘にそう話し、娘の携帯でもう
すぐ娘が結婚する筈だった婚約者に電話をかけた。
「今ね、こうき君に連絡したからね」
やっぱり、娘の意識は戻らないままだった。
『ごめんね…、とわこ…、お父さんが死んでから、あなたに随分寂しい
思いさせたわよね、あなたには、幸せになってほしかった、あなたの結婚
が決まった時、とても嬉しかったわ、なのに、ごめんね、お母さん、
変わってあげられなくて…、ごめんね、とわこ…』

「ごめんね…、ごめんね…、ごめんね…」
私は、声に出して娘に何度も誤った。
病室の扉が開いて、こうき君が入ってきた。
「こうき君…、ごめんね…、とわこは、もう…」
「えっ…?」
こうき君の顔は青ざめていた。
彼は娘の顔も見ず、すぐに病室を出て行ってしまった。
何事もなかったように、また病室は私と娘だけになった。

「もう一度…、愛しているわ…」
二人だけの時間がどれだけ過ぎただろう、真夜中すぎ、娘のうわごとが
聞こえたような気がした。
「とわこ…!」
私は、慌てて看護士を呼んだ。
医者が病室に入ってきて、処置を始めた。
「とわこ…、もう一度…、もう一度戻ってきて!」
私の願いは届かず、数分後、娘に繋がれた機械から、心停止を知らせる
音がした。

娘を失った時、私にはもう一度、娘の婚約者に電話することしか
できなかった。


ー終わりー








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