(これは3話完結の小説の2話目です。登場人物はすべて架空の人物です。)
『もう一度』 2.とわこ
暑い夏の夜のデートの後、私は、愛する彼が別れ際にもう一度キスを
してくれなかったことにふくれながら、母が一人待つ自宅に向かって歩いていた。
もう一度、彼の声が聞きたくなって、バックから携帯を出し、彼の番号を
画面に表示した時、いきなり車のライトの光が目に飛び込んきた。
私は、彼の番号が表示された携帯電話を“ギュッ”と握り締めた。
私の体は浮き上がり、そのまま意識が薄れていった。
私の体はたくさんの管を着けられ、病院のベットに寝かされていた。
私は何処からかその光景を見ていた。
母と白衣を着た男の人が話をしていた。
「お気の毒ですが、娘さんが目を覚ますことはもう…」
「娘は助からないんですか…?」
「お気の毒ですが…」
『えっ…、死んでしまったの…?、私…』
母は涙を流していた。
「私は…、ここにいるわ…、お母さん…」
泣いている母に一生懸命話しかけたけど、声は出てくれなかった。
母がベットの私に話かけた。
「あなたね、携帯電話だけしっかり握っていたんですって…、あなたの体が
携帯電話を守ったって…、それでね、自宅の番号がわかったんですって」
『へ~、凄いなぁ…』
私は、人事のようにそう思った。
「今ね、こうき君に連絡したからね」
そう言った後、母は私に謝り続けていた。
『何故、謝っているの…?』
しばらくして、彼が病室に入ってきた。
彼の顔は青ざめていた。
「こうき君…、ごめんね…、とわこは、もう…」
「えっ…?」
彼はすぐに病室から出て行った。
私に繋がれた機械はまだ動いていた。
私は、彼の部屋にいた。
「こうき…」
その声は、ベットで眠る彼には届かなかった。
「もう一度、キスしたかった…」
突然、開いていた窓から見知らぬ男が入ってきた。男はとても暴力的な
目をしていた。
「彼に近づかないで…!」
私は、男の腕をつかんだ。
私が男の中に“スー”っと入っていった。
「こうき…」
彼は、もうろうとしたまま立ち上がった。
私は、自分の唇を愛おしい彼の唇に重ねた。
「もう一度…、もう一度だけ…」
「とわこ…」
彼は私に気づいてくれた。
『こうき…、愛しているわ、ごめんね、結婚できなくて…』
「もう一度…、いいでしょう…、お別れだから…」
私はもう一度、彼の唇に私の唇を重ねた。
「とわこ…、愛してる…」
彼は私を抱きしめてくれた。
その時、体の力がゆっくり抜けて行くのを感じた。
遠くから、命が終わった音が聞こえた。
ー終わりー
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