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小説 もう一度1 こうき

(これは3話完結の小説の1話目です。登場人物はすべて架空の人物です。)

暑い夏の夜、目が覚めて僕は驚いた。
僕が、知らない男と立ったままキスをしていた。
『何だ…?、夢か…?』
僕の体には男と密着している感触が、唇には男の唇だろう感触が
ちゃんとある。
僕は、記憶を巻き戻す為に頭をたたき起こそうとした。
その瞬間、男の体と唇の感触は柔らかな女のものに変わった。
『えっ…?』
唇が離れ、小さく女の声が聞こえた。その声は明らかに僕に
向けられている。
「もう一度…、もう一度だけ…」
「とわこ…」
姿ははっきり見えなかったが、その声は確かに彼女のものだった。
彼女は、僕が愛しているこの世でたった一人の女だ。
「もう一度…、いいでしょう…、お別れだから…」
『お別れ…?』
その瞬間、僕の記憶は急速に巻き戻った。

彼女と僕は、結婚の約束をしていた。
彼女とのデートの帰り道、携帯が鳴った。画面を見ると、
彼女の名前が移し出されていた。
『ついさっきまで会っていたのに何だろう…?』
僕は、少しウキウキして電話に出た。
「もしもし、どうしたの…?」
返ってきたのは彼女の声ではなかった。
「もしもし…、こうき君…?」
その声の主は彼女の母親だった。
僕はその声の重さに不安を感じながら応えた。
「あっ…、はい…」
「とわこが交通事故に…」
僕は体中から血の気が引いていくのを感じ、夢でも見ているように
彼女の母親から聞いた病院に向かった。

「ねぇ、もう一度!」
「また、明日だよ
「え~、いいでしょう…」
「楽しみにとっておこうよ、また明日!」
彼女はその日のデートの別れ際、もう一度と僕にキスをねだった。
僕は、もう今日は何度もしているし、また明日と応じてやらなかった。
だけど、それは、ほんのイタズラの一つだった。
明日また当たり前に会えると思っていたから…。

病室に入ると、彼女の母親がベットの脇に座って泣いていた。
「こうき君…、ごめんね…、とわこは、もう…」
「えっ…?」
彼女には、幾つもの管が着けられていた。
僕は、彼女を失ってしまう事実を目の前にして、耐えられず、
彼女の顔も見ず、泣いている彼女の母親を残して病室を出て、
もうろうと家に帰り、ベットに潜り込んだ。

彼女はもう一度、放心状態の僕の唇にその唇を重ねた。
その唇は、今まで彼女と重ねたどの瞬間の唇より、優しくて悲しい
唇だった。
「とわこ…、愛してる…」
僕は、もうろうとしたまま彼女を抱きしめた。
その瞬間、彼女の体は、知らない男に戻った。

男は自分の居場所が解らない様子で、慌てて開いていた窓から
出て行った。

僕の体と唇には、彼女の感触が鮮明に残っていた。
そして、耳には、彼女の呟く声が…。

「もう一度…」

携帯が鳴った。
きっと、彼女の母親だろう…。


ー終わりー






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