(これは小説です)
2.救いと気づき5
アイツは、“マッチ棒みたい”ではなくなり、スッとした。
アイツの姿やアイツの周りに流れる柔らかな空気は、アイツの持っている
障害を包み込んでいるほどだった。
だけど、友達とけんかしたり、先生に注意されたりした時のアイツは、
誰よりも苦しそうに見えた。
「なぁ…、とりあえず、謝っちゃえばいいのに…」
私の言葉に、アイツはいつも笑顔でごまかした。
「まあね、そうやね」
私には軽く返せるそんな言葉も、けんかをした友達や注意された先生には
返せなくて…、ダンマリになってしまっていた。
『悪いと思うほど言葉が出ないんだろうなぁ…』私は、その笑顔や放つ
柔らかい空気を感じ、そう思っていた。
“この人が傷付きませんように…”私は、何時の頃からかそう願うように
なっていた。
いつものように寄宿舎でのグループ活動の後、2人でいると、アイツが
みかんを私に見せて聞いた。
「食べる…?」
「うん!、食べる!」
アイツはそのみかんを私の手に乗せてくれた。
自分のみかんを出してむき始めたアイツの横顔を何となく見ていた私は、
“ドキッ”とした。
『あれ…?』私は、自分の気持ちに気づき始めた。
-“救いと気づき”終わり-
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