(これは物語です)
『小さな羽根』
Ⅲ 名前のない天使10
「具合はいかがですか…?、ジュナさん」
「はい!、もう痛みませんし、新しい羽根にもなれました」
「そうですか、もう空は飛べますか…?」
「はい、もう、散歩しながらも飛んでいます、とても速く飛ぶことができて嬉しいです」
「調子は良さそうですね」
「はい、とても良いみたいで私もびっくりしています」
「それなら、もう、お帰り頂いても結構なのですが…、どうなさいますか…?」
“天使”は何でもないことのように言いました。
「ええ…」
「それなら、すぐ帰ります!」
ミーメの少しの戸惑いに気づかず、ジュナはすぐに応えました。
「わかりました、それでは、少しお待ち下さい」
“天使”はそう言うと、少し急ぎ足で“あちらの部屋”に戻っていき、
また少し急ぎ足でこちらに戻ってきました。
「お待たせ致しました、サインして頂いた契約書です」
「はい、ありがとうございます」
「今後のことは、この“契約書”に基づいてお願い致します」
「はい、わかりました…」
「それでは…、ミーメさん、ジュナさん、お元気で…」
「ええ…、あなた、こんなに広い所でまた一人になるんですね、寂しくはないんですか…?」
「寂しい…?、いつもの暮らしに戻るだけです」
「お強いんですね」
「いいえ…、あなたの方が…」
「えっ…」
「あっ…、いいえ…、喋りすぎてしまってごめんなさい…、ミーメさん、
ジュナさん、どうかお幸せに…、心からお祈りしています」
ジュナとミーメは、もう一度“名前のない天使”にお礼を言って青い空へ
飛び立ちました。
くる時にはミーメと手を繋いでゆっくりと飛んでいたジュナが、今はミーメより
先に飛び、やがてそれに気づき、ミーメに飛ぶ速さを合わせていました。
青い空を抜け、銀色の光、そして金色の光を抜けて、くる時と同じように遠く遠く
飛び続けて帰っていきました。
幸せな思いを抱いて…。
ー“Ⅳ天使の苦悩1”へ続くー
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