(これは物語です)
『押し入れ』
ちびちゃんは、家族と離れて、ちびちゃんと同じように立って歩くことが
できなかったりするお友達と学校の寄宿舎で暮らしていました。
そこでは、ちびちゃんより大きなお兄ちゃんやお姉ちゃんもたくさん
暮らしていました。お兄ちゃんやお姉ちゃんは、ちびちゃんをとても
可愛がってくれました。
「私が帰って来るまでに着替えられる…?」
ちびちゃんと同じように車椅子のお姉ちゃんが、自分でパジャマに着替え
ようとしているちびちゃんに聞いてくれました。
「うん!」
ちびちゃんは、張り切って応えました。
お姉ちゃんは、美人でカッコ良くて、ちびちゃんはとても憧れていました。
「よし!頑張りや!」
お姉ちゃんは、そう言って部屋を出て行きました。
体を丸めて、トレーナーを脱いで、もう一度体を丸めて、シャツを脱いで、
パジャマの上着に頭を入れて、右腕を入れて、左腕を入れて、整えて…。
寝転んで、右に左にころころしながらズボンを脱いで、もう一度起き
上がって、押し入れのドアにもたれて、両足を前に投げ出して、
パジャマのズボンに右足を入れて、左足を入れて、もう一度寝転んで、
ころころしながらパジャマのズボンを上げて、整えて…。
ちびちゃんは、お姉ちゃんにほめてほしくて、一生懸命にお姉ちゃんが
帰って来るまでに着替えようと頑張りました。
『できた~』
ちびちゃんは、パジャマ姿でワクワクしてお姉ちゃんが帰って来るのを待ちました。
“カチャッ”
『あっ、帰って来た』
お部屋のドアが開いてお姉ちゃんが入って来ました。
「できたよ!」
ちびちゃんは、張り切ってお姉ちゃんに言いました。
「えらかったな…」
ところが、お姉ちゃんは小さな声でそう言ってくれただけで、ちびちゃんが
楽しみにしていたようにはほめてくれませんでした。
『あれっ…?、な~んだ…』
ちびちゃんは、ガッカリしてお姉ちゃんを見ました。
お姉ちゃんは、車椅子からお部屋のちびちゃんがいる畳に上がり、さっきまで
ちびちゃんがもたれて着替えていた押し入れのドアを開けて、スルスルと
いざって中に入ってドアを閉めてしまいました。
『お姉ちゃんどうしたんやろう…?』
ちびちゃんはその初めての光景を、ただびっくりして見ていました。
し~んとしたお部屋には、パジャマ姿のちびちゃんと押し入れの中に
入って行ったお姉ちゃんと二人だけでした。
“カチャッ”もう一度お部屋のドアの開いて、寄宿舎の先生が入って来ました。
先生は、押し入れを静かに開けて、中にいるお姉ちゃんと小さな声でお話し
をしていました。
お姉ちゃんが、スルスルといざって押し入れから出て来ました。
その時にちらっと見えたお姉ちゃんの目は、何だか真っ赤になって濡れて
いるようでした。
「ちびちゃん、早よ寝えや」
先生は、お布団の上に座っているちびちゃんに声かけると、押し入れを出て、
畳から車椅子に下りたお姉ちゃんと一緒にお部屋から出て行きました。
『お姉ちゃん、泣いてたのかなぁ…?』
ちびちゃんは、お布団に潜り込みながら思いました。
『私に見られたくないから、押し入れに隠れちゃったのかなぁ…?』
眠たくなって来たちびちゃんは、お布団の中で考えました。
『私はよく泣いて怒られるけど、あんなに大きくなっててカッコ良いい
お姉ちゃんでも、泣くことあるんだなぁ…』
-おわり-
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