(これは物語です)
『オレンジ色の椅子』
ある日、お母さんが晩ごはんの前に、ちびちゃんをいつもごはんの時に
座っている子供用の“オレンジ色の椅子”に座らせました。
「ちびちゃん、聞いてね」
お母さんが“オレンジ色の椅子”の前でちびちゃんに向かって話し始めました。
「ちびちゃんは、ちびちゃんと同じように歩けない子がたくさんいる療育園
っていうところに行くのよ」
いつもとちょっと違うお母さんの様子に、不安になったちびちゃんは聞きました。
「またお家に帰ってくるの…?」
「ううん、ちびちゃんは、お家を離れてそこでお友達と一緒に暮らすのよ」
お母さんがちびちゃんの髪の毛をちびちゃんのお気に入りの“イチゴの付いた
ヘアゴム”でくくりながら言いました。
「そこで訓練したらね、ちびちゃん歩けるようになるかもしれないのよ、
ちびちゃん歩けるようになりたいでしょ…?」
「うん」
ちびちゃんは、不安でいっぱいの小さな心で小さな声で応えました。
「大丈夫よ、みんなで会いに行ってあげるから、お家に泊まれる日も
あるんだから!」
「うん」
ちびちゃんは、やっぱり不安そうに応えました。
「わかったわね、ちびちゃん!」
お母さんは、元気にそう言うと、ちびちゃんを“オレンジ色の椅子”に
座らせたまま晩ごはんの用意を始めました。
その時に座っていた“オレンジ色の椅子”も、その時にお母さんに付けて
もらった“イチゴの付いたヘアゴム”も、ちびちゃんの心からずっと
消えることはないでしょう…。
数日後、ちびちゃんの療育園での暮らしが始まりました。
-おわり-
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