(これは物語です)
『手のひら』2
あの朝にチラシを隅々まで読んだ私は、そこに書いてあった会社名と
電話番号を自分で操作出来るように工夫したスマートフォンに登録
していました。
「おはようございます」
「こんにちは」
「こんばんは」
私は、玄関の鍵が開いていつもの挨拶が聞こえる度に、小さくため息を
つくようになっていました。
ヘルパーさんがきてくれなければ、私の生活は成り立たないし、命に
だって繋がるということは十分に解っているつもりです。
だけど、ため息が出てしまうのです。
“アンドロイドヘルパーお試しキャンペーン開催中”
“あなたの望む支援で、あなたの時間はあなたのものに…。
あなたの心の疲れとイライラを私たちと一緒に減らしましょう。
あなたの支援データの登録で、あなただけのヘルパーさんに…。
開発中につき、今なら1週間、無料でお試し頂けます。
お気楽にご連絡下さい。”
私は、スマートフォンに登録した番号に電話をしました。
「お電話ありがとうございます、○○○でございます」
何度かのコールの後、柔らかな女性の声で応答がありました。
私は、何だかホッとして、迷いなくその声に言いました。
「アンドロイドヘルパーを利用したいのですが」
「はい、ありがとうございます、それでは、こちらから幾つかのご質
問させて頂いてよろしいでしょうか…?」
「はい」
氏名、性別、年齢、住所、電話番号、障害の程度、私がアンドロイド
の利用者本人か、現在どの程度の支援を受けているか、今回アンド
ロイドにどこまでの支援を望んでいるか、私は質問に応えました。
「アンドロイドに登録するためのあなたの介助方法などのデータが
必要なのですが…、よろしいでしょうか…?」
「あっ、はい」
「それでは、まず、あなたにお会いできますでしょうか…?」
「はい」
「居宅での支援と外出の支援をご希望でしたら、データの収集に2日間
必要になりますが、よろしいでしょうか…?」
「はい、大丈夫です」
ー“手のひら3”へ続くー
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