(これは物語です)
『ゆで卵』
彼女は、彼のためにゆで卵を作ることにしました。
ヘルパーさんが帰る前に、電気コンロとお鍋と生卵を2つ、リビングキッチン
のテーブルの上に置いてもらって、電気コンロのコンセントを入れてもらって
おきました。
「さぁ、作ろう~!」
彼女は、まず、テーブルの電気コンロの上にお鍋を乗せました。
それから、電動車椅子を運転して、シンクの所に行きました。
彼女が持ちやすいコップにお水を入れ、こぼさないように電動車椅子を運転して、
テーブルの所に戻って、そーっと電気コンロの上のお鍋に入れました。
『まだまだだなぁ…』
彼女は、この動きを何度か繰り返しました。
『よし、いい感じ』
お鍋のお水がいい感じの量になりました。
彼女は、次に電気コンロのスイッチを入れようとしましたが、もう一度シンクの所に
戻り、できあがったゆで卵をお鍋からすくうための網のおたまと、すくったゆで卵を
乗せるためのお皿を取ってきて、テーブルの上の電気コンロの横に置きました。
『よし!』
彼女は、いよいよ電気コンロのスイッチを入れました。
しばらくお鍋を覗いていると、お水に少しずつ泡が出てきて、そのうち大きな泡に
なって、お鍋の中でブクブクブクブクしだしました。
『湧いてきた!』
彼女は少しドキドキしながら、テーブルの上の2つの生卵をお鍋の中に入れました。
『え~っと、おばあちゃんに教えてもらったいい感じの半熟になる時間が…、
確か2分半だったな!』
彼女は時計を見ながら待ちました。
『よし!、今だ!』
彼女は、お皿をコンロに近づけて、網のおたまでお鍋の中でブクブク踊っている
2つのゆで卵をすくってお皿に乗せました。
「できた!」
大切な2つのゆで卵ができあがりました。
彼女は、お皿の上の2つゆで卵を愛おしく見つめました。
『彼、喜んでくれるかなぁ、おいしくできたかなぁ』
彼女は、ドキドキしながら、彼を待ちました。
“カチャ”玄関の鍵が開きました。
『あっ、きた…!』
-おわり-
PR