(これは小説です)
『その奥にあるもの』1
今、彼がお肉を買いに行ってくれました。
ほんの1時間ほど前、私が車椅子の上で彼に呟きました。
「焼き肉食べたいな…」
「お肉、買って来よか!」
一緒に見ていたテレビ番組が終わったあと彼がそう言って、
バイクで出かけて行きました。
もう、すっかり夜に包まれた空からはたくさん雨が降っています。
きっと、視界が悪い中、カッパ着て、お肉を買うために走って
くれているのでしょう…。私のために…。
『私は幸せやなぁ…!』
ふんわりしたものが心に現れました。
テレビを見ながら、彼の帰りを待っていました。
20分ぐらい経った頃、今度は、少しの不安が心に現れました。
『大丈夫かなぁ…?、バイクすべらへんかなぁ…?』
その不安に向かって、私は呟きました。
「お肉食べたいなんて言わんかったらよかったかなぁ…」
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