(これは物語です)
『手のひら』7
朝いつもの時間に目を覚ました私は、ミュウさんに声をかけました。
ミュウさんは、寝室の扉を開けて入ってきました。
「おはようございます」
ミュウさんがあの柔らかな笑顔で扉を閉めながら言いました。
「お目覚めになられましたか…?」
「はい、おはようございます」
「では、起床の支援を始めさせて頂いてよろしいでしょうか…?」
「はい、お願いします」
私は心から目覚め、1日を気持ちよくスタートすることができました。
『こういうことだったのかもなぁ…』
ミュウさんは、また手際よく支援を進めました。
その日のお昼の支援で、ポータブルトイレに座らせてもらった時、
少しお尻の位置がズレていて痛みを感じてしまいました。
私は、掃除をしているミュウさんに声をかけました。
「ミュウさん…、体を持って、お尻をもう少し左にズラして下さい」
「はい…、このくらいですか…?」
「もう少し…右に…」
「はい…、このくらいですか…?」
「はい、それくらいで大丈夫です」
お尻の位置はベストな位置に収まりました。
ベットから車椅子に移動してもらった時も同じように、お尻の位置を
ベストに直してもらいました。
ベットでの洗髪の支援の時、シャンプーをつけた後、頭をこする加減
が物足りなくて、頭を洗っているミュウさんに声をかけました。
「ミュウさん…、もう少し強くこすって下さい」
「はい、このくらいですか…?」
「痛たた…、もう少し…、弱くこすって下さい」
「はい、すみません、このくらいですか…?」
「はい、それくらいで大丈夫です」
ベストな加減になりました。
ある日の夕食にまたラーメンを作ってもらいました。
「ラーメンが食べたいです」
今度はそう伝えてだけで、あの日と同じラーメンを食べられました。
ポータブルトイレのお尻の位置も、車椅子のお尻位置も、洗髪の時の
頭をこする加減も、ベストになった日から、いつもベストです。
あらかじめ登録されていたこと以外にも、細かいことのベストが
増えていきました。
ミュウさんの支援は、支援の前の確認も、支援開始のタイミングも、
支援中のリズムも、支援終了のタイミングも、私の空気感に合って
いて、決して私の時間に食い込んでくることもなく、私は、支援中
は“支援の時間”として、気持ちよく受けることができました。
そして、1度登録されたことは、いつも完璧にこなすミュウさんは、
私にベストなヘルパーに成長していきました。
もちろん、支援中に恐怖などは、全く感じることはありませんでした。
ー“手のひら8”へ続くー
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