(これは物語です)
『手のひら』8
私は、ミュウさんに声をかけました。
「お願いします」
ミュウさんはリビングに現れてあの柔らかな笑顔で聞きました。
「はい、どうされましたか…?」
「今から外出の支援をして下さい」
「はい、解りました。」
「今日は夕方の居宅の支援はキャンセルです」
「はい、解りました。」
「外出の準備をして下さい」
「はい」
ミュウさんと私は出かけました。
「お願いします、地下鉄に乗って●●●に向かいます。」
何度か行っているコースで、ミュウさんには登録されています。
地下鉄の乗り降りの車椅子の介助も、●●●までのアスファルトの道
での車椅子の介助も、段差や傾斜の車椅子の介助も、他の支援と
同じように、あらかじめ登録されていたデータと実際に介助して
もらって私が伝えた情報によって、スムーズにこなせるように
なっていました。
私は、危険を感じることなく●●●に着いて、洋服や小物、それから、
食材の買い物を済ませることができました。
店員さんに何かを訪ねる時は、ミュウさんに店員さんの所まで、
連れて行ってもらって、私が直接訪ねました。
私が自分で訪ねた方が、店員さんに私の思いが伝わりやすいと
思っている私には、そこは手伝ってもらう必要がありません。
私は自分で話したいのです。
ミュウさんは、決して、自分から私の前に出ることはありません。
私は落ち着いて買い物ができます。
振り返る人はなく、ミュウさんはすっかり人間に溶け込んで
います。
車椅子に乗っている私に小さな子が振り返り、不思議そうに
人間の私を見ていました。
「お願いします、買い物が終わったから、夕食を食べます」
私は、ミュウさんにをかけて●●●にある中華料理のお店に連れて
行ってもらって、中華丼を食べました。
ミュウさんは、食事の必要はありませんでした。
家に帰って、その日は少し早めに就寝の支援をしてもらいました。
「今日も1日ありがとうございました、おやすみなさい」
ミュウさんは、いつもの言葉の後に、いつものように私の頭に
手を“”ポン”っと置きました。
『やっぱり、何かあったかいなぁ…』
ー“手のひら9”へ続くー
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