(これは物語です)
彼女はスカートをはいて、彼はスーツを着て、いつもよりもおしゃれ
して出かけました。
彼女と彼は、ホテルのフルコースディナーに…。
「いらっしゃいませ、お待ちしておりました、こちらのお席へどうぞ」
ボーイは、車いすの彼女のために、テーブルの椅子を一つ抜いてくれました。
「ありがとうございます」
二人は、とても気持ちよくテーブルにつきました。
テーブルには、ナフキンとナイフ、スプーン、フォークが二人分置かれて
いました。
注文した飲み物が運ばれてきました。
彼が二つのグラスを合わせて、一口飲んだあと、彼女の前に置かれたグラスを
彼女の口元に持っていき、彼女にも一口飲み物を飲ませてくれました。
「ああ、おいしい!」
彼女が言いました。
「そうか~」
彼は彼女に笑顔を向けて言いました。
何皿かの前菜が順番に運ばれてきました。
ボーイは、新しい料理をテーブルに置く度に料理の説明をしてくれました。
彼は、自分と彼女にナフキンをかけながら、彼女に料理の説明をして、
自分の前の料理をナイフとフォーク、スプーンを使って食べて…、
彼女の前の料理をナイフとフォーク、スプーンを使って彼女に食べさせて
くれました。
「これ、すごくおいしいね」
「うん、おいしいな」
「これ、なんやろな…?」
「トリフや」
「えっ、すごーい!」
「あっ、これ、ウニ入ってる!、おいしい…!」
前菜のお皿たちが片付けられ、スープが運ばれてきました。
スープのお皿には、透明な紙に包まれた薄いグリーンのスープがのっていて、
別に大きなクルトンがのったお皿が運ばれてきました。
「エンドウ豆のスープでございます、こちらのスープのお皿の紙を開いて
頂きまして、こちらのクルトンを入れてお召し上がり下さい」
ボーイが説明してくれました。
彼が自分の前のスープの紙を開いて、クルトンを入れて、スープをスプーン
ですくって飲みました。
「おいしい…?」
「うん、ちょっと熱いけど、おいしいな」
彼は、彼女の前のスープの紙を開いて、クルトンを入れて、スプーンを
使って彼女に飲ませてくれました。
「熱っ、これ、紙で冷めにくくしてあるんやわ!」
「そうか~、おいしいやろ」
「うん、おいしい!」
メインのお肉が運ばれてきました。
「やらかくておいしい…」
「うん」
彼は、彼女の前のお肉をナイフとフォークを使って食べさせてくれたあと、
自分の前のお肉を食べ始めました。
『何てきれいに食べる人なんやろう…』
お肉をナイフで切って、フォークを使って食べる彼を見て、彼女は思いました。
彼のナイフとフォークを使う姿、その手の動きは“スー、スー”と美しく
見えて、彼女は見とれてしまいました。
何種類かのおいしいデザートを食べて、二人で紅茶を飲んで、フルコース
ディナーの時間は終わりました。
「おいしかったね!」
「そやな!」
-おわり-
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